「転びそうだから手すりを使ってほしいのに嫌がる…」
「せっかく手すりを取り付けたのに、一度も使ってくれない」
「『まだそんな年じゃない』と言って断られてしまう」
このような悩みを抱えるご家族は少なくありません。
手すりは転倒予防に役立つ大切な設備ですが、本人が使わなければ十分な効果は期待できません。無理に勧めるとかえって反発を招き、家族との関係が悪くなることもあります。
大切なのは、「なぜ嫌がるのか」という理由を知り、その人に合った方法で自然に使ってもらえるよう工夫することです。
この記事では、高齢者が手すりを嫌がる理由や放置するリスク、家族ができる工夫について分かりやすく解説します。
高齢者が手すりを嫌がる主な理由
「危ないから使ってほしい」という家族の思いとは裏腹に、本人にはさまざまな理由があります。
まずはその気持ちを理解することが大切です。
「まだ必要ない」と思っている
最も多い理由は、自分ではまだ元気だと思っていることです。
歩けているつもりであれば、
「手すりなんて必要ない」
「まだ介護される年齢じゃない」
と感じる方も少なくありません。
本人にとっては、手すりを使うことが「年を取った」と認めるようで抵抗を感じる場合があります。
自尊心を傷つけたくない
長年、自分の力で生活してきた方ほど、
「家族に心配されたくない」
「弱ったと思われたくない」
という気持ちが強いことがあります。
そのため、安全性よりも自分らしさを優先してしまうケースもあります。
手すりの使い方が分からない
実は、手すりがあっても使い方が分からず利用していない方もいます。
例えば、
- どの手で持てばいいか分からない
- 握るタイミングが分からない
- 手すりの位置が合っていない
など、小さな理由で使われなくなっていることがあります。

「手すりがありますよ」と伝えるだけでは十分ではありません。実際に一緒に歩きながら、「ここで軽く持つと安心ですよ」と体験してもらうことで、自然に使えるようになる方も多くいます。
手すりの位置が使いにくい
設置場所や高さが合っていないと、逆に使いづらく感じます。
例えば、
- 少しかがまないと届かない
- 歩く動線から離れている
- 握りにくい太さになっている
などの場合は、手すりがあっても使われにくくなります。
「転ぶかもしれない」と思っていない
家族は危険だと感じていても、本人は危険を自覚していないことがあります。
特に転倒経験がない方では、
「今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫」
と思ってしまい、手すりの必要性を感じにくい傾向があります。
手すりを使わないことで起こるリスク
手すりを使わなくても問題なく生活できる方もいますが、体力や筋力が少しずつ低下すると転倒の危険性が高まります。
転倒による骨折
高齢者では転倒がきっかけで、
- 手首
- 背骨
- 太ももの付け根(股関節)
などを骨折することがあります。
特に股関節の骨折は、その後の生活に大きく影響する場合も少なくありません。
外出が減ってしまう
一度転びそうになった経験があると、
「また転ぶかもしれない」
という不安から外出を控えるようになることがあります。
活動量が減ると筋力も低下し、さらに歩きにくくなる悪循環につながります。
家の中でも転倒しやすくなる
転倒は屋外だけではありません。
実際には、
- 玄関
- トイレ
- 廊下
- 浴室
- 階段
など、毎日使う場所で起こることが多くあります。
ちょっとした段差や方向転換でもバランスを崩しやすくなるため注意が必要です。

「歩けている」ことと「安全に歩けている」ことは同じではありません。ふらつきや壁につかまる場面が増えてきたら、転倒予防を考えるタイミングです。
家族ができる工夫
手すりを使ってもらうためには、無理に勧めるよりも「安心できる」「便利だ」と感じてもらうことが大切です。
「危ないから」ではなく「楽になるよ」と伝える
「転ぶよ」「危ないよ」と言われると、否定されたように感じる方もいます。
それよりも、
「立ち上がるのが少し楽になるよ」
「膝への負担が減るよ」
など、生活が楽になることを伝える方が受け入れられやすくなります。

最近の家は建てた時から階段に手すりがついていたりします。うちもついているため、『うちは階段にもともと手すりついていますよ。楽だからつかまってますよ(笑)』などと手すりを使うことへの抵抗が減るような会話をしてます。ほんとにつかまっているんですけどね。
本人が困っている場面から提案する
例えば、
- トイレから立ち上がるとき
- お風呂へ入るとき
- 階段の上り下り
など、本人が少しでも不安を感じている場面で提案すると、必要性を理解してもらいやすくなります。
一緒に使う練習をしてみる
「使ってね」と言うだけでは、習慣にならないことがあります。
最初は家族が隣について、
- トイレで立ち上がるとき
- 階段を上るとき
- 玄関で靴を履くとき
など、毎日の動作で一緒に手すりを使ってみましょう。
繰り返し体験することで、「使った方が楽だ」と感じてもらえることがあります。
手すり以外の環境も見直す
手すりだけで転倒を防げるわけではありません。
例えば、
- 滑りやすいマットを撤去する
- 廊下や階段を明るくする
- 電気コードを片付ける
- よく歩く場所を整理整頓する
など、家全体の環境を整えることも大切です。
手すりと合わせて環境を改善することで、より安全な生活につながります。

手すりを使う目的は「歩けなくなったから」ではありません。安全に今まで通りの生活を続けるための道具です。この考え方を本人にも家族にも共有できると、受け入れられやすくなります。
家族がやってはいけないこと
良かれと思ってしている対応が、かえって手すりを使いたくない気持ちを強めることがあります。
無理やり使わせる
「絶対につかまって!」
「使わないなら危ない!」
と強く言われると、反発したくなる方もいます。
手すりを使うこと自体が嫌になってしまうこともあるため、本人の気持ちを尊重しながら少しずつ慣れてもらうことが大切です。
「年だから」と繰り返し言う
「もう年なんだから」
「年寄りなんだから使いなさい」
という言葉は、自尊心を傷つけてしまいます。
年齢ではなく、
「安心して歩けるように」
「膝への負担を減らすために」
という前向きな理由を伝えるようにしましょう。
手すりだけで安心してしまう
手すりが付いていても、
- 履物が滑りやすい
- 床に物が置いてある
- 照明が暗い
- 足腰の筋力が低下している
などの問題があれば転倒は防げません。
定期的に住環境や身体機能を見直すことも大切です。

手すりをみると離れた位置からでもつかもうとし、つかまるのを前提で体を傾けながら手を伸ばす方がいます。
体を傾けてしまうと、つかみ損ねた時にバランスをくずして転倒してしまいます。体を傾けなくても届く位置まで行ってから手すりにつかまりましょう。
病院や専門家へ相談した方がよい目安
次のような場合は、医療機関や地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへ相談することをおすすめします。
- 最近ふらつきが増えてきた
- 家の中でも壁につかまって歩くことが多い
- 転倒したことがある
- 立ち上がりが難しくなってきた
- 手すりが必要か判断に迷う
- 本人が極端に手すりを嫌がる
また、理学療法士による歩行やバランス能力の評価を受けることで、その人に合った転倒予防の方法を提案してもらえる場合もあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 手すりは転倒してから設置すればいいですか?
転倒してからではなく、転倒を予防するために設置することが大切です。
歩行に少しでも不安が出てきた段階で検討すると、安心して生活を続けやすくなります。
Q. 手すりを使うと足腰が弱くなりますか?
基本的には、適切に使用することで足腰が弱くなることはありません。
必要な場面だけ手すりを使い、安全に活動を続ける方が、転倒を恐れて動かなくなるよりも筋力維持につながります。
Q. 賃貸住宅でも手すりは設置できますか?
工事が不要な据え置き型や突っ張り型の手すりもあります。
住宅環境や介護保険の利用状況によって選択肢が異なるため、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ相談すると安心です。

まとめ
高齢者が手すりを嫌がる背景には、「まだ必要ないと思っている」「年を取ったと認めたくない」「使い方が分からない」など、さまざまな理由があります。
家族は無理に勧めるのではなく、本人の気持ちを理解しながら、「楽になる」「安心して生活を続けられる」というメリットを伝えることが大切です。
また、手すりだけに頼るのではなく、住環境の見直しや適度な運動も転倒予防には欠かせません。
最近ふらつきが増えてきた、転倒が心配になってきたという場合は、早めに医療機関や専門職へ相談し、安全に暮らせる環境づくりを進めましょう。

